おいしい本が好き

本の中の食べ物はおいしそうに見える。

おいしい本が好き

小食な子どもだったけれど、食べ物にはすごく興味があった。

実際に今日食卓にのぼるものではなく、本に書かれたものに。

子どものころ暮らしていたのは古い借家で、茶の間と二間続きの寝室には母の嫁入り道具の箪笥が二竿並んでいた。箪笥と壁の間には毛布にくるまった私がすっぽりと入ってしまうだけのスペースがあって、押し入れから毛布を引っ張り出して絵本とともに隠れてしまえば、もうそこは私だけの図書室だった。

 

ぐるんぱがびーさんのところでつくった大きなビスケット。

フランシスが眠る前にもらう1杯の牛乳、おとなだけが食べている夜のケーキ。

森の中でおなかをすかせた小人とべんとうを開けば、かたいパンとすっぱいぶどう酒は、あまいたまご菓子とじょうとうなぶどう酒に変わる。

今年もたくさん実がなるようにと祈りをこめて「なりきぜめ」の傷にはおかゆを塗る。桃と甘柿と渋柿の生る家。

「からっぽにしてしまってはあとのひとにおきのどく」どんぐりははちみつに、はちみつはパンに、パンはくりに。

そういえばマドレーヌは二列になってパンと何を食べていたんだろう。

 

 

あの隙間で、あの古い家で読んだ本の多くはもう手元にない。

でもあの頃も今も、私は食べ物のでてくる本を愛してやまない。

 

小説でもエッセイでも料理本でも、おいしいものが出てくる本のことについて書いていこうと思います。